大型のM&A(合併と買収)のニュースが日々報じられています。数十億、数百億円、数千億という規模の買収となると中小零細企業の経営者にとっては、別次元の話のように思えますが、「会社(事業)の売り買い」は意外と身近なレベルにまで浸透し始めてきています。小規模事業の売買であっても、買い手にも売り手にも、確かなメリットをもたらしている事例が増えてきています。
例えば買い手の場合、飲食店を開業したいという独立希望者が、ゼロから店を借りて内装や厨房設備等を購入すると2千万円の資金がかかるようなケースを想定しましょう。しかし、既に営業している飲食店の営業権を現オーナーから買取る方法なら、その半分以下の資金で“自分の店”を持つことが可能です。
また、ゼロから開業する場合に比べて、既存客を取り込める可能性も高く創業時の不安定な時期のリスクを抑えられ、事業計画も立てやすく、あらかじめ課題に備えることができます。
事業の売り手の場合、「事業継承」といえば親から子供へと会社が引き継がれていくケースがまず連想されます。しかし近年、後継者不足に悩む高齢の経営者が増えてきており、国内でも中小の会社や事業、店舗を事業継続意欲のある「第三者」に譲渡することで継承していく必要性が一層、高まってきています。確かな目論見のある事業の引き継ぎ手が得られれば、売り手側としても手離れよく事業を引き渡すことができ、安心してセカンドライフを過ごすことができます。
そして、事業を承継せず廃業するとなると、廃業のため多額の清算費用(例えばテナントの原状回復費用など)がかかってしまいますが、事業を売却によって承継する場合には、いくらかの株式譲渡益を見込むこともできます。
M&A先進国の米国では、中小規模の会社や事業の売買は、ビジネス・ブローカーという専門の仲介業者を介して行うことが普及しています。ちょうど街中の不動産業者を利用するような感覚で、会社や店舗を売買することができる環境が整備されています。
中小の事業が売買取引される理由は様々ですが、高齢の経営者が“ 廃業 ”という方法ではなく“ 第三者への事業承継 ”を希望するケースや、全国展開する大手グループ企業が地方で繁盛している小規模グループ企業を戦略的に買収するケースもあります。
このようなM&A取引は不動産や中古車の売買に似ていて、売り手と買い手との間に仲介者が立って、適正な売買金額を査定して取引の交渉がされています。M&Aの事業の買い手(もしくは売り手)探しから、価値評価、譲渡価格の交渉、契約手続きなどの多岐にわたる実務を、M&A経験豊富な仲介業者がサポートしています。
中小事業の円滑な承継、売却、買収ができる環境があることで、これから事業を始めようとする独立希望者、事業を拡大したい経営者、事業を縮小したい経営者、引退を控えている経営者に、より多くの選択肢がもたらされているのです。
そしてこのようなM&A環境が整備されていくことによって、起業家たちが何度でも再起を図ることができる「失敗に対する許容度が高い」社会をつくりだしていくことにもつながっていきます。