世の中には数多くの株式会社がありますが、
株式を実用的に活用している会社は
どの程度あるでしょうか?
設立時から、まったく手をつけていない会社も多いのではないかと思います。
しかし、実は株式会社にとって、
株式は最大の武器になる可能性を秘めています。
ベンチャー企業は、
株式の活用次第でその後の成長に
大きく差がでてきます。
資本の潤沢な大手企業と違い、
資本の限られている創業期のベンチャー企業は、
株式を使うことで資金調達、優秀な人材の獲得、企業間提携、買収などを
柔軟に行うことができるようになるのです。
創業期の株式の力を要約するならば、
株式は「あなたの経営戦略を金銭価値に変換して仲間を増やす」ための
“ マニュアル式トランスミッション ”なのです。
では、ギアチェンジのそれぞれの段階を事例を使ってみていきましょう。
①第1段階
創業者が自己資金を出資して、
会社を設立します。
この時、会社の資本金額が会社の全資産となります。
ここで注意して欲しいのが、
会社の資本金額、資産額などの帳簿上の価値と
「企業価値」はまた別物だということです。
企業価値は、
会社の資産から将来生まれる
キャッシュフローの現在価値の総和で決まります。
つまり、企業価値は、
あなたの持っている経営戦略と
その現実的妥当性とビジネス・リスクが決めるのです。
この段階では、創業者が100%の株式を保有しています。
②第2段階
共同経営者などの創業メンバーが参画します。
この場合、共同経営者A、共同経営者Bが
それぞれ200万、100万の資本提供も伴い経営に参画したとしましょう。
創業者 70%
共同経営者A 20%
共同経営者B 10%
資本金 1000万
企業価値 額面もしくは評価
この時、注意しなければならないのが、
創業者の持ち株比率です。
この後の、事業拡大を考えた時に、
スピーディーな意思決定を行えるように、
創業者が十分な割合の株式を保有しておく必要があります。
過半数以上の株式を抑えておく必要はあるでしょう。
また、事業計画に基づいて、
投資家にアプローチしていくための基礎的な企業価値評価を行い、
自社の価値を把握しておくことが重要です。
③第3段階
ここからは、いよいよ外部の投資家の資本も受け入れる段階になります。
創業者、創業メンバーにより、
事業計画も準備し、製品・サービスのプロトタイプもリリースしたと仮定しましょう。
この段階では、小規模であっても
創業メンバーの生活がまかなえる程度の
キャシュフローが事業から生まれていることが、
投資家との交渉にあたって重要になります。
これはラーメンプロフィッタブル(ラーメン代稼ぎ)と言われており、
外部投資家が資本を供出するにあたり、
存続のための資金の心配を取り除くことになり、
経営陣側、投資家側双方により前向きな取り組みを可能にするメリットがあります。
投資家には、シード期に出資を行うエンジェル投資家~ベンチャーキャピタルまで
いくつか種類がありますがこの事例では一括りにVCとして扱うことにしましょう。
最初に外部投資家であるVCからの出資を受け入れる際には、
出資比率に注意しなくてはなりません。
事例においては、
発行済み株式数の10%の出資を受け入れています。
すると創業者を含めた他の全てのメンバーの持ち株比率が
(当初の持ち株比率)×0.9で下がっていることにに注意してください。
その後の成長を考えると、
最初の資金調達以降にも、数度、外部から資金を調達する必要がありますが、
初期のラウンドにおいて、過剰な比率での出資を受け入れてしまうと、
経営陣の持ち株比率の希釈化(創業者の持ち株比率が最も希釈化の影響を受ける)に伴い、
次のラウンド以降の出資を受け入れるために経営陣に十分な持ち株比率が確保できず、
経営陣へのインセンティブが失われるとともに、
経営のコントロールが失われてしまうことになります。
またこの段階であまりにも高い株価で出資を受けると、
次のラウンド以降の投資の受け入れを困難にしてしまう点についても
注意が必要です。
さて、事例においては、
企業価値を3億と評価し、VCから
3,000万を新たに調達しました。
それぞれの持ち株比率は下記のようになります。
創業者 63%
共同経営者A 18%
共同経営者B 9%
VC 10%
資本金 4,000万
企業価値 3億
④第4段階
順調に事業が成長してくると、
更に追加での資金が必要になってきます。
VCから追加出資を受けたとしましょう。
企業価値を5億として、追加で5,000万の出資を受けました。
創業者 56.7%
共同経営者A 16.2%
共同経営者B 8.1%
VC 19%
資本金 9,000万
企業価値 5億
⑤第5段階
事業が軌道に乗ってくると、
成長のスピードも速くなり、
より優秀な社員を確保していく必要もでてきます。
社員のモチベーションのためにも、
ストックオプション(株式を事前に取り決めた価格で取得できる権利)を
活用していくことになります。
ストックオプションは行使(エクササイズ)することで、
株式を取得することができます。
行使価格1万で発行されたストックオプションが、
上場等により20万の価値を持てば、19万のキャピタルゲインを得ることができます。
ベンチャー企業側は、
社員に対して、一度にストックオプション全てを行使をされてしまうと人材の確保ができませんので、
ベスティングを設定し、1年に25%ずつ行使できるなどの縛りを付けます。
ストックオプションのために使う株式は
あらかじめオプションプールとして準備しておきます。
創業者 51.03%
共同経営者A 14.58%
共同経営者B 7.29%
VC 17.1%
オプションプール 10%
資本金 9,000万
企業価値 10億
この後も、ベンチャーが成長するに従ってラウンドを数度重ねていくことになります。
第1段階から第5段階までの流れをまとめるとこのようになります。
創業者の持ち株比率は経過とともに下がってきていることがわかります。
しかし、その一方で新しい当事者が増えてきていることもわかります。
これが会社を大きくするということなのです。
創業者の持ち株比率は、
ベンチャーの進展とともに下がってきますが、
新しい株主が増えていくことにより企業価値が上昇し、
金額ベースでの創業者の株式価値は大きくなっていきます。
ベンチャーの資本政策(株式配分)で大事なのは、
将来の成長を阻害しないように持ち株比率のバランスを保ちながらも、
発行済み株式を金額ベースで考えることです。
そのためには、
経営者は自社にいくらの価値があるのかについて、
しっかりとしたソロバンを持っていることが、
非常に重要になります。
創業者の資本政策について、
フリーミアムの名付け親で、Twitter、Tumbler、Foursquareへの投資実績を持つ
ベンチャーキャピタリストのフレッド・ウィルソンが
より専門的な講義を行っている貴重な映像があります。
ご興味ある方はこちらもご視聴いただくと良いと思います。
A Class on "Employee Equity"
taught by Fred Wilson,USV