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未来志向の戦略が企業価値を生みだす


未来志向の戦略が企業価値を生み出す

「企業価値」とは、企業の金銭的価値、つまり「会社の値段」のことです。 企業価値は、その企業が将来生み出すキャッシュフローの現在価値の総和として表すことができます。


高い企業価値は、企業価値を担保に事業に必要な資金の調達を容易にし、

更なる成長の機会を与えてくれます。



ここでは企業価値の計算方法の詳細については省略しますが、

肝心なことは、企業価値はその企業から「将来生まれるキャッシュ」の量によって決まるということです。


つまり、企業価値は、その企業が事業に対して過去どのような資本を投入したのか、 もしくは過去の結果がどうだったのかによって決まるのではありません。


過去の結果は、参考となる重要なデータには違いありませんが、 企業価値を決めるのは、あくまでその企業が将来生み出すことが予想されるキャッシュの量なのです。

私たちは「企業価値を中心に据えた戦略的会計」をいわゆる一般的な会計と区別して、

よくこういう例えを使います。


「バックミラーではなく、前方を見て運転をする」


前方、つまり未来を見据えて企業運営を行うことによって、

私たちは新たな企業価値を創造することができます。




経営者の役割は、 企業が将来生み出すキャッシュフローを計画し、 計画を実行に移すことです。


将来のキャッシュフローが十分に予想される計画の場合、

計画を立てた時点で企業価値は創造され、価値は上昇します。

もちろん、計画を実行しても十分な結果が得られなかった時は、

その時、企業価値は損なわれます。


しかし、計画の実行の結果に伴う、企業価値の毀損については、

株主側のリスク判断による面もあるため、計画の想定の範囲内であれば

経営者は責任を部分的には果たしているとも言えます。



逆に、計画が将来のキャッシュフローが十分に見込めない場合、 計画を立てた時点から企業価値は損なわれることになります。


この場合には、企業価値の毀損の責任は100%経営者にあります。


経営者の立てる事業計画次第で

企業価値は上がりもすれば、下がりもするのです。



ここで、2つのグラフを見てみましょう。

過去の実績に基づいた予測

図表1は、成熟市場で事業展開するA社のキャッシュフローの現在価値を表しています。

A社は、現在の年商50億、営業利益3億の会社です。

売上、営業利益は横這いで推移していくことを見込んでいます。



A社の企業価値は既存の事業に依拠し、

過去の実績に基づいて、現状を維持することを念頭に算出されています。


数年先のキャッシュフローはリスクによってディスカウント(割引)されるため、

企業価値の大部分は近い将来のキャッシュフローの現在価値が占めています。





将来の展望に基づいた予測

図表2は、成長市場を展望するB社のキャッシュフローの現在価値を表しています。

B社は、現在の年商5億、営業利益は3000万の会社です。 売上、営業利益は5年先から急成長が見込まれています。



B社の企業価値は、新しい市場をつくりだし、

将来の予測に基づいて、新たな価値を創出することを念頭に算出されています。

そのため、企業価値の大部分は10年目以降のキャッシュフローの現在価値が占めています。




2つのグラフを並べて比較してみると、両社の違いがより鮮明になります。




現時点ではB社はA社の1/10の売上規模に過ぎないにも関わらず、 B社はA社の10倍以上の企業価値があります。(図表3)



この結果は、A社とB社の戦略の違いによりもたらされています。


A社は成熟市場を選択し、B社は将来性のある成長市場を選択しています。


経営者は戦略的に市場を選択し、

“ Bの戦略ポジション ”を選択することで、

企業価値を創造することが可能になります。 Aのポジションから、Bのポジションを選択し移行すること、

これが戦略の基本です。


現在、盤石な経営基盤のある企業であったとしても

戦略の見直しを行い、Bのポジジションを選択する姿勢がなければ

企業価値を創造することはできません。


逆に、現在どんなに小さな事業であったとしても、

将来の展望に基づいて、市場を見誤らずにBのポジションを選択し、

将来のキャッシュフローを十分に見込める戦略を持つことで、

大きく企業価値を創造することが可能になります。




企業の売上高成長率の2/3以上は、

市場自体の成長によりもたらされているという研究結果もあります。 既存の市場において競合企業に競り勝ちシェアを奪うことによって、

成長の拡大がもたらされることは、 実際にはほとんど微々たるものです。 業務改善も、 企業価値の創出に若干の貢献はするかもしれませんが、 企業の戦略ポジションがAからBに移行することはありません。

安定推移を予測していたはずのAの成熟市場が

外部要因の急変によって、突如市場ごと消えてなくなることもありえます。

つまり、どこに立つのか?ということが、決定的に重要になってくるのです。


そして現在、市場は大きな変化を迎えようとしています。

モバイルコンピューティングに代表されるテクノロジーの進展が

その変化をもたらそうとしています。

あらゆるものが、インターネットと繋がろうとしている中で、

大きな成長機会は数多く考えられます。


いま経営者には、

将来どのように世の中が変わっていくのかについてビジョンを持ち、 成長性の高いポジションBの戦略を持つことで、

企業価値を創造することが求められています。


つまり、いま経営者には「新しい市場を創りだす意志と展望」が求められているのです。






参考文献:

『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』

Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 2014


『インテル戦略転換』

Only the Paranoid Survive: how to exploit the crisis points that challenge every company and career

アンドリュー・S・グローブ 1996


『コア・コンピタンス経営 :未来への競争戦略』

Competing for the Future

ゲイリー・ハメル、C.K.プラハラード 1994




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